Research Activity

研究紹介

心不全・肺高血圧グループ

  • 2019.04.1 |

<心不全に関する研究

1) 心不全患者における血清neprilysin値の検討

心保護作用を持つナトリウム利尿ペプチドの分解を防ぐneprilysin(NEP)阻害薬が心不全の予後を劇的に改善することが2014年に報告されました。しかしながらこれまで心不全患者において①血中NEP濃度に影響を与える因子 ②血中NEP濃度と予後との相関 ③経時的なNEP濃度の推移 ④心臓から放出されるNEPと血行動態の関係については十分には明らかにされていません。私たちのグループは慢性および急性心不全症例において血清NEP濃度と関連する臨床的特徴、予後に与える影響および血清NEP濃度上昇と血行動態の関係を検討しています。本研究により得られた結果から心不全患者における血清NEP 濃度測定の意義を明らかにし、将来NEP阻害薬が使用可能となった際に、NEP阻害薬のレスポンダーを選択する指標となりうることか、さらに検討したいと考えています。

2) 心アミロイドーシスの効率的な診断法の確立および予後評価について

心アミロイドーシスはアミロイド蛋白が心臓に沈着することによって生じる心筋症であり、心不全や伝導障害、突然死に関わる疾患です。近年、高齢の心機能が保たれた心不全患者に心アミロイドーシスが隠れている可能性が指摘されています。またトランスサイレチン型心アミロイドーシスに対する治療薬であるタファミジスの承認によりその早期診断の重要性が強調されています。しかしながら心アミロイドーシスの診断は心電図や心エコー検査のみでは診断が難しく、心臓MRI検査や核医学検査といった画像診断や、心筋から病理学的にアミロイド蛋白の沈着を証明、およびアミロイド蛋白の種類を同定する必要があります。

我々は今まで100名を超える野生型トランスサイレチン型心アミロイドーシスの診断および加療の経験を有し(図1)、心筋トロポニンTなどの心筋障害マーカーや画像診断、心臓以外の組織生検を組み合わせた心アミロイドーシスの診断法(図2)を提唱しています。我々は以下のようなプロジェクトを進行中です。

  1. a) 熊本における心アミロイドーシスの実態調査
  2. b) 簡便な心アミロイドーシス病理診断の検討
  3. c) 野生型トランスサイレチン型心アミロイドーシスの診断および予後解析
  4. d) 手根管症候群の手術既往例における心アミロイドーシスの早期発見の検討
  5. e) 心アミロイドーシスにおける心筋病理と画像診断の対比

 

(図1)

 

(図2)

肺高血圧症に関する研究

肺高血圧(PH)は肺血管病変や左心疾患によって平均肺動脈圧が25 mmHg以上となる疾患です。肺高血圧の病因・原因病態は多岐にわたりますが、病因・病態が類似する症候群を1つにまとめ、PHを5群に分類した「肺高血圧症臨床分類」が第2回目の肺高血圧症ワールド・シンポジウムで提案され、2018年にニースで開催された第6回の同シンポジウムでアップデートされました(下図)。

私たちは各群のPHにおいて、様々な研究を基礎・臨床両面からおこなっております。

1) 臨床研究

1) 第Ⅱ群PHに関する臨床研究

第Ⅱ群PHは左心系心疾患に伴うPHで、最も頻度の多いPHです。その病因の一つにHFpEF (Heart failure with preserved left ventricular ejection fraction:左室収縮保持性心不全) が挙げられます。私たちは当科入院となったHFpEF患者における至適mPAP (mean pulmonary arterial pressure:平均肺動脈圧) について検討を行いました結果、下図のようにmPAP値を15mmHg、20mmHg、25mmHgをカットオフとして2群に分けて心不全イベント発症を追跡すると、いずれのケースにおいても低mPAP群で心不全イベント予後が良好でした。また、ROC解析により、心不全イベント発症予測のための至適mPAPのカットオフ値は17.5mmHgであることがわかりました(Nishihara T, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2019)。

今後はこの指摘目標値をめざした治療が実際に予後改善につながるか介入研究で確認したり、その手段として既存のPAH治療薬が有用かどうかを検討していきたいと思っています。

また、HFpEF-PHとⅠ群PHの中間に位置するとされ最近注目されている病態にatypical (I)PAHがあります。私たちはこの病態患者の血行動態や患者背景を詳細に検討し、HFpEF-PHあるいはⅠ群PHとの違いを明確にするとともに、これらに対する適切な治療法の確立をめざして研究をおこなっております。

2) 第Ⅰ群・第Ⅳ群PHにおける血管内皮機能の意義に関する臨床研究

私たちはReactive hyperemia peripheral arterial tonometry (RH-PAT)(下図) を用いて非侵襲的に末梢血管内皮機能を測定し、様々な心血管疾患における役割を検討しています。肺動脈性肺高血圧患者では、肺血管内皮細胞でのNO減少と肺血管平滑筋細胞増殖による肺血管抵抗増大が生じていることから、われわれは末梢の血管内皮機能が肺動脈性肺高血圧症の重症度と相関すると仮説し、この非侵襲的血管内皮機能測定装置を用いて検討を行っています。同方法による末梢血管内皮機能が肺動脈性肺高血圧症の予後予測因子として、あるいは薬物治療高反応群(responder)層別化のツールとして応用しうるか検討し、臨床上極めて要請の高いこれらの問題解決に寄与したいと考えています。

また、第Ⅳ群PHである慢性肺血栓塞栓性PH(CTEPH)においても、治療(BPA:バルーン肺動脈拡張術)前後でRH-PATを測定し、BPAによるCTEPHの改善の末梢血管内皮機能に対する影響を検討するとともに、BPA後の右心機能改善のマーカーにRH-PATが有用かどうかの検討も行っております。

基礎研究

1) PHにおける内皮型一酸化窒素合成酵素機能異常の関与に関する基礎研究

内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)アンカップリングは、eNOSの補酵素であるBH4の欠乏や酸化によりeNOSが機能不全をおこした結果、NOではなく酸化ストレス(ROS)が産生される現象であり、新たな血管内皮機能障害の原因として注目されています(Yamamoto E, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007, 2007, Hypertension 2010)。昨今eNOSアンカップリングが肺動脈性肺高血圧の発症機序の一つである可能性が複数の基礎研究で示唆されていることから、私たちは最近確立されたVEGF受容体拮抗薬と低濃度酸素負荷によるヒト肺動脈性肺高血圧症の真のモデル動物を用いて、eNOSアンカップリングの肺動脈性肺高血圧の関与機序の詳細を基礎的に検討しています。

具体的には、同モデルラットの肺動脈・肺組織でのeNOSアンカップリングの主因たるビオプテリン代謝関連酵素の発現異常を病理学的・生化学的に解析するとともに、同ラットにeNOSアンカップリング改善薬としてBH4製剤:塩酸sapropterinやBH4を再生するとされる葉酸を投薬し、その病態に対する改善効果を解析しています。これにより、肺動脈性肺高血圧症へのeNOSアンカップリング関与を基礎的に証明し、既に他疾患で臨床使用されているBH4製剤や葉酸などによる肺動脈性肺高血圧症への新たな治療法の可能性を提案したいと考えています。

2) PHにおける環状グアノシン一リン酸(cGMP)とPKGを標的にした基礎研究

NOの生理活性やcGMPの産生を低下させる血管内皮機能障害は、肺血管における過剰な収縮とリモデリングを病態とする肺動脈性肺高血圧症の発症と進展に関与しています。cGMPは、血管平滑筋を弛緩し、心血管リモデリングの進展を抑制する細胞内二次伝達物質ですが、下流で主要なシグナル伝達を介在しているプロテインキナーゼG(PKG1α)を標的とした治療開発には至っていません。中村らは、チオール基システインの特異的酸化を介すPKG1αレドックス制御機構を見出し、この新規機構がPKGの機能だけでなく肺高血圧症の治療薬であるホスホジエステラーゼ5阻害薬の反応性を可逆的に調節する重要な修飾因子であることを報告しています(Nakamura T, et al. J Clin Invest. 2015, Circ Heart Fail. 2018)。また、ラット心筋を用いた網羅的なプロテオーム解析により、これまでに報告のないPKGの基質とそのリン酸化部位を数多く同定し積極的に機能解析を進めています。なかでも、アルドステロン誘導性の肺血管リモデリングや肺血管平滑筋細胞の増殖に関与が報告されている機械的ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)を上流で負に制御するチュベリン(TSC2)上に新たなPKGリン酸化部位を同定し、ジョンズ・ホプキンス大学との共同研究によりPKG/TSC2/mTORC1シグナル経路の意義を明らかにしています(Nature. 2019)。

これまでの研究成果を踏まえ、肺動脈性肺高血圧症(第I群)や今後増加が見込まれるHFpEF合併肺高血圧症(第II群)の動物モデル作製にも取り組み、PHにおけるPKGおよびそのレドックス制御機構の研究発展と標的有用性の確立を目指しています。

 

メンバー紹介

山本 英一郎(診療講師)

高潮 征爾 (助教)

藤末 昂一郎(助教)

西原 大貴 (大学院生)

西 雅人     (大学院生)

森岡 真美 (大学院生)

 

連携研究者

中村 太志 (医療情報経営企画部 准教授)

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