Cardiology internal medicine

研究紹介

基礎研究グループ

  • 2019.03.28 |

1. 骨格筋を鍛えるとなぜ心血管疾患に良い影響があるのか?その分子機序解明を目指す

心血管疾患患者では進行性の骨格筋萎縮が高頻度に発生し、死亡の独立した危険因子となることが知られています。これらの患者さんに対して、骨格筋量を維持するための積極的な運動が診療ガイドラインにも推奨されています。心不全や腎不全が骨格筋委縮を引き起こすことは広く認識されていますが、逆もまた真なりか?つまり骨格筋量の維持・増加が心腎障害を改善しうるか?という疑問はこれまで明らかにされていませんでした。われわれはこれまで骨格筋肥大が誘導できる遺伝子改変マウスを作製し、骨格筋由来分泌因子 -マイオカイン- を介した骨格筋と多臓器の連関について研究を推進し、筋肉量を維持することの有用性を明らかにしてきました。これらの成果を基盤として、現在われわれは新規マイオカインの同定とその機能解析を進めております。マイオカインを介した臓器間ネットワークの解明は、運動療法の臨床的有用性の分子機序解明のみならず、新規バイオマーカーや治療標的の同定に繋がる可能性があると考えています。

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本プロジェクトに関係する代表的な論文

Onoue, Izumiya et al. Int J Cardiol. 2016;215:301–306.

Hanatani, Izumiya et al. J Am Soc Nephrol. 2014;25:2800-11.

Araki, Izumiya et al. Circ Heart Fail. 2012;5:116-25.

Rokutannda, Izumiya et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2011;31:2872-80.

Izumiya et al. FEBS Lett. 2008;582:3805-3810.

Izumiya et al. Cell Metab. 2008;7:159-72.

2. 長寿遺伝子であるサーチュインの一員、Sirt7 の心血管病態における役割解明

高齢化が進行する我が国において、高齢者の健康増進や予防医学の重要性は大きくなっています。心血管疾患は老化と密接な関係にあり、寿命の短縮やQOLの低下を引き起こす主要な原因疾患となっています。従って、心血管病を老化の面からアプローチし、その機序を分子レベルで明らかにすることは、新しい治療標的の同定・開発につながると考えられます。 サーチュインはもともと老化を制御する分子として同定されましたが、その後の研究で細胞の分化・増殖・代謝など様々な機能を制御することがわかってきました。哺乳類ではSirt1からSirt7までのホモログが報告されています。Sirt7はもっとも新しく同定izumiya2されたサーチュインですが、心血管病態における役割は分かっていませんでした。われわれはこれまでSirt7ノックアウトマウスを使用し、心血管病態におけるSirt7の機能解析を推進し、平成27年度にSirt7が心筋梗塞後の創傷治癒に必須の分子であることをCirculation誌に報告しました。本論文は平成28年度の日本循環器学会総会にてCPIS賞を受賞するなど、臨床教室からpublishされた基礎研究論文として非常に高く評価されております。現在、Sirt7の血管病変形成や心不全における役割を検討しています。本プロジェクトにより得られた成果から、Sirt7の活性制御が心血管疾患の新たな治療戦略となりうることを提唱したいと考えています。

 

本プロジェクトに関係する代表的な論文

Araki, Izumiya et al. Circulation. 2015;132:1081-1093.

3. サイクリックGMP(cGMP)とcGMP依存性プロテインキナーゼを標的にした研究

「心肥大」は血行力学的ストレスやエネルギー代謝異常に対する適応現象ですが、病的な心筋リモデリングや心不全の前段階であるばかりでなく、虚血性心疾患や不整脈の独立した危険因子としても重要な病態です。中村は、米国Johns Hopkins大学のDavid A. Kass教授のもとで、圧負荷心肥大の病態モデルを用いて心臓生理学や分子生物学的手法を学びました。研究留学を通じ、心不全治療の標的として重要性を増す細胞内の二次メッセンジャー「cGMP」とcGMPの主要なエフェクター分子である「cGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG1α)」の活性機序解明に従事し、PKGのレドックス制御機構と心臓における意義を明らかにしました(Nakamura T, et al. J Clin Invest., 2015)。帰国後、圧負荷ストレスの慢性刺激で誘発される心肥大のモデル作製や、動物(マウス、ラット)の心臓から心筋細胞を単離するシステム、初代培養細胞を用いた分子生物学的手法を新たに基礎研究グループに導入し、継続してcGMP/PKGシグナルの研究を発展させるための環境を整備しました。遺伝子改変マウスを用い、心肥大だけでなく心不全や心筋梗塞、肺高血圧症の病態モデルでも治療標的としての有用性を示し、臨床応用を目指します。

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研究テーマ

① cGMP/PKGシグナリングと心臓ストレス応答

② タンパク質のチオール基修飾と病的心血管リモデリングの進展

③ サルコメア弾性タンパク質「タイチン」の制御機構と拡張不全治療への応用

④ 肺高血圧症とcGMPシグナリング

⑤ 食塩感受性における細胞内Caハンドリング異常

実験モデル

圧負荷誘発心肥大(胸部大動脈縮窄TAC)モデル (マウス)

心筋梗塞モデル (マウス)

高血圧モデル (マウス、ラット)

肺高血圧モデル (マウス、ラット)

細胞培養

新生仔ラット心筋細胞、筋線維芽細胞

アダルトラット心筋細胞、筋線維芽細胞

アダルトマウス心筋細胞、筋線維芽細胞

細胞株(HEK、H9c2など)

本プロジェクトに関係する代表的な論文

Nakamura et al. J Clin Invest. 2015;125:2468-72.

4. 胎児・新生児期の環境が成人後の循環器疾患に及ぼす栄養の解明

今世界で生まれる子供の16%は、出生児体重2,500g未満の低出生体重時です(UNICEF世界子供白書2016より)。日本でも低出生体重児の出生率は年々上昇する傾向にあり、現在日本で生まれる子供のおよそ1割が低出生体重児です(図:厚生労働省 人口動態統計より)。izumiya3日本では周産期医療の進歩により、このようにして生まれた子供たちの大部分は成人へと成長することができますが、生まれた時の環境が、成人後の循環器疾患の発症に影響することはあまり知られていません。 1986年にバーカー博士らは、出生児体重が低いと成人後の心疾患リスクが高くなることを発見し(Barker Lancet 1986)、現在この概念は発展してDevelopmental Origin of Health and Disease (DOHaD)学説として認知されています。主に疫学的検討により明らかとなった本概念ですが、なぜリスクが上昇するのか?という機序については明らかではありません。 われわれはこれまでに、心臓が複数の細胞群が集まる“細胞のるつぼ”で、それらの細胞群が複雑な相互作用により心臓という臓器をつくることを報告しています。本プロジェクトでは、これまでの心臓がいかにして作られるか?という問いを基本として、胎児期・新生児期の環境が変化することによりどのように心臓は変化し、成人後の循環器疾患と関連するのかを明らかにすることを目指します。

本プロジェクトに関係する代表的な論文

Kim, Arima et al., Mechanism of Development. 2013;130:553-66.

Arima et al., Nature Communications 2012;3, 1267

基礎研究グループメンバー

中村   太志       准教授

荒木      智       助教

有馬勇一郎     助教

石田 俊史      大学院4年生

山本 正啓      大学院4年生

徳永 信行      大学院3年生

中西 信博     大学院3年生

山田 敏寛     大学院2年生

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