Research Activity

研究紹介

予防医学・疫学・性差医療グループ

  • 2021.06.1 |

<予防医学に関する研究>

心不全発症の予測

心不全は、心筋梗塞、心筋症、弁膜症、肺高血圧、先天性心疾患など各心疾患の終末像です。心不全は高齢者に多く、再発も多く、根本的治療も現時点で殆どないのが実情です。この心不全が、世界で増加の一途をたどっており、特に日本では未曽有の高齢化社会へ突入していることもあり、心不全の患者数が著しく増加しています。また、高齢者の心不全は、心不全自体の診断・治療だけではなく、併存疾患、独居、老々介護など様々な問題を抱えています。その様な状況の中で、限られた医療資源をどのように有効活用していくかが私達、医療人には問われています。

 

この問いに対して、「心不全の予防」は、解答の一つと思います。高齢者全員が心不全を発症することはないので、心不全発症リスクが高い患者を同定して、その患者へ医療資源を集中的にむける事は現実的かつ有効な手段と思います。

 

現在、我々は、心不全ハイリスク症例を特定できる方法を検討しています(現在、論文投稿中)。既存のマーカーやスコアリングを応用できるか、また、新たなシステムを提唱できないかを検討しています。

 

心不全ハイリスク症例を特定できる手段が確立できれば、「心不全予防が、心不全の最大の治療の1つ」となり、日常診療で糖尿病、高血圧、脂質異常症などを診断・治療している「かかりつけ医」の段階で、より効果的な診療ができるのではないかと考えています。

 

<疫学に関する研究>

1) 2型糖尿病患者におけるアスピリンの動脈硬化性疾患一次予防効果に関する研究
Japanese Primary Prevention of Aspirin for Diabetes (JPAD)

糖尿病患者におけるアスピリンの一次予防効果に関する本邦でのエビデンスを最初に報告した研究です。北海道から沖縄県までの全国163施設から登録された2536人を対象とした本研究では2002年に無作為比較試験として開始し、2008年には結果をまとめて報告しています。その後、コホート研究に移行し、2017年には長期追跡結果をまとめて報告しています。最終的には、糖尿病患者のアスピリン投与による動脈硬化性疾患一次予防効果は認めず、消化管出血を有意に増加させるという結果でした。これら2つの論文は、国内外のガイドラインに掲載され、臨床の場にインパクトを残してきています。また、サブ解析が行われて上記以外に本研究から14の論文を報告しています。現在、糖尿病患者の動脈硬化性疾患一次予防コホートとして継続し、種々の課題に取り組んでいます。

2) 高リスクを有する高血圧患者における各種バイオマーカーと心血管イベント発症に対するアンジオテンシンII受容体拮抗薬の効果に関する研究
A Trial of Telmisartan Prevention of Cardiovascular Diseases (ATTEMPT-CVD)

高血圧以外に追加の危険因子を1つ以上有する高血圧患者1245人に対するangiotensin II receptor blocker (ARB) 治療と非ARB標準治療の血漿brain natriuretic peptide (BNP)およびurinary albumin to creatinine ratio (UACR)に及ぼす長期効果を比較した試験です。同試験の主要な知見は血圧コントロールに差がない状況において非ARB治療に比べてARB治療は経年的な血漿BNPの上昇を少なくし、UACRの減少を大きくしました。心血管イベントや腎臓リスクに関するマーカーの中で血漿BNPとUACRは最も中心となるバイオマーカーです。ATTEMPT-CVD試験での高血圧治療におけるこれらのバイオマーカーの改善は新たな高血圧治療に関する洞察を生み出したといえます。現在、高血圧治療によるタンパク尿、腎機能の改善について検討中です。

3) 急性心筋梗塞の臨床像に対する遡及的調査研究

急性心筋梗塞は,冠動脈粥腫の破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈内腔が急速に閉塞し心筋が壊死に陥る疾患ですが、その病態は合併症によって多岐にわたり、治療・管理法も未だ十分に確立されているとはいえません。急性心筋梗塞の疫学ならびに急性期の複雑な病態の解明と現在の治療効果・問題点を明らかにすることを目的として、匿名化された診療情報を遡及的に解析し、既に終了した医療内容の調査研究を行っています。現在は特に、肥満、糖尿病、腎機能障害などの病態と急性心筋梗塞の関連を中心に研究しています。

メンバー紹介

松下 健一  特任教授

副島 弘文  准教授(保健センター)

<性差医療に関する研究>

性差医療

生まれる前から話題になるのは女の子?男の子?ではないか。男女では社会的性(gender)と遺伝的性(sex)の違いがある。我々はgenderとsexを考えながら診療や治療を行う必要がある。女性が男性より寿命が長いこと、虚血性心疾患、心房細動などは男性に多く、大動脈炎症候群や膠原病、骨粗鬆症は女性に多いことはよく知られている。Genderとの関係なのか、我が国では自殺者は3万人弱/yearで、その2/3は男性である。Fabry病や筋ジストロフィー、色盲などX染色体につながった疾患は男性では重症化しやすいが、女性にはその症状に個々人で大きな違いがある(Lyon仮説)。認知症は女性患者が多い傾向があるようであるが、発症率は男女で差が無いようである。これは男性の寿命が短いことに起因するのかもしれない。genderとsex、年齢などを考えながら診療や研究を行うことは、診療の幅を広げ患者に福音をもたらすものと考える。近年は、大規模研究でも、基礎研究でも男女(雌雄)の同数の登録などもFDAが指針を出している。今年度から、AMED(日本医療研究開発機構)から研究費をいただき、政策研究大学院大学などと共同で「女性の健康の包括的支援実用化事業」を行っている。

‘性差’gender、sex、永遠の難問である。身近なところに研究材料は転がっていると思われる。興味がある先生は一緒に勉強しましょう。(河野)

メンバー紹介

河野 宏明  教授(環境社会医学部門)

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