Cardiology internal medicine

研究紹介

冠攣縮/血栓症グループ

  • 2019.03.28 |

<冠攣縮に関する研究>

冠攣縮性狭心症患者の病態の解明

冠攣縮性狭心症は異型狭心症をはじめ、安静時狭心症や労作性狭心症、急性冠症候群にいたるまで、多くの虚血性心疾患の病態に大きく関与していることが知られています2008年には日本循環器学会にて冠攣縮性狭心症の診断・治療ガイドラインが作成され、その疫学的側面や病態、診断、治療法については大部分が解明されてきています。しかし、臨床的には心臓カテーテル検査におけるアセチルコリンを用いた冠攣縮誘発試験を行った際、日本循環器学会ガイドラインの診断基準に示されている、冠動脈の完全閉塞や亜閉塞状態を来す症例の他、胸部症状や心電図変化を伴った冠動脈のびまん性攣縮や、血管造影上明らかな冠攣縮のない微小血管攣縮と診断される症例が存在します。

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Ishii M, Kaikita K et al. IJC Heart Vascular. 2016;12:85-87.

 

今回我々は1991年1月から2010年12月までに当院に入院し、狭心症の精査のためアセチルコリン負荷試験を施行した全症例において、冠攣縮の発症形態を確認し、各々の冠攣縮発症形態と患者背景、寄与因子等を調査することにより、冠攣縮性狭心症の診断・治療の新たな可能性について検討しました。下記のとおり、冠攣縮の発症形態により限局性攣縮とびまん性攣縮に分類し、それぞれの5年間の心血管イベントの発症率を調査したところ、びまん性攣縮は女性に多く、高度な冠動脈狭窄の合併が少なく、限局性攣縮よりも予後が良好であることがわかりました。これらのことにより冠攣縮性狭心症が疑われる場合には、アセチルコリン負荷試験を行い、冠攣縮の発症形態を評価することは、予後のリスク評価を行う上で重要なことがわかりました。

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Sato K, Kaikita K et al. J Am Heart Assoc. 2013; 2: e000227

また、急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死を包括する急性冠症候群は幅広いスペクトラムから成る症候群であり、その多くは冠動脈プラークの破綻に伴う血栓形成により引き起こされますが、冠攣縮もその発症に重要な役割を有しています。プラーク破綻に伴う血栓形成と異なり、冠攣縮はカルシウム拮抗薬や硝酸薬により抑制され、病態に応じた適切な治療が重要です。われわれは、日本人の急性冠症候群発症における冠攣縮の頻度やその患者背景の特徴、予後を検討しました。

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2001年1月から2010年12月までの間に済生会熊本病院、横浜市立大学附属医療センターに非ST上昇型急性冠症候群の診断で入院し、冠動脈造影を行った1601例の造影所見や患者背景を調査しました。1601例の非ST上昇型急性冠症候群のうち、約20%の320例で、冠攣縮が原因であることを明らかにしました。また、そのうちの1/3の方が、自然発作でST上昇発作を呈する異型狭心症を合併していることを明らかにしました。冠攣縮が原因で非ST上昇型急性冠症候群を発症した症例の特徴として若年(70歳未満)で、高血圧や脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病といった生活習慣病の合併が少なく、心筋梗塞の既往がないことが判明しました。これらのことから、非ST上昇型急性冠症候群を発症した症例において冠動脈リスク因子が少なく、責任病変を認めない場合は、その原因として冠攣縮を念頭に置いて診療していくことが重要であることが示唆されました。

Nakayama N, Kaikita K et al. J Am Heart Assoc. 2014; 3: e000795

 

冠攣縮性狭心症患者の病態の解明

冠循環中の血清乳酸値測定は、アセチルコリン負荷試験中の冠攣縮に起因する心筋虚血の有用な補助診断法ですが、どのような因子が寄与しているかの報告は少ないのが現状です。また我々は以前、内皮型一酸化窒素合成酵素のプロモータ領域の-786T/C遺伝子多型が冠攣縮の発症に密接に関与していることを報告しています。今回、我々はアセチルコリン負荷試験時の心筋乳酸産生と遺伝子多型の関与、またそのほかの寄与因子について1991年1月から2010年12月までに当院に入院し狭心症の精査のためアセチルコリンkaikita4負荷試験を施行し、乳酸の採血および遺伝子多型の測定を行った全712症例を対象とし調査を行いました。712例中、252例に心筋乳酸産生を認め、有意に女性、糖尿病、冠攣縮陽性に多いことがわかりました。一方、遺伝子多型と乳酸産生には明らかな関連は認められませんでした。しかし、アセチルコリン負荷試験で陽性であった冠攣縮性狭心症患者においてさらに解析してみたところ、全症例を対象とした時と同様に、心筋乳酸産生の有意な関連因子として女性、糖尿病が指摘され、さらに遺伝子多型も有意な関連因子であることがわかりました。この心筋乳酸産生が冠攣縮性狭心症患者の予後に与える影響について調査したところ、有意な関連は認めませんでした。このことは、たとえ心筋乳酸産生を認めたとしても、カルシウム拮抗薬をはじめとした薬物療法により冠攣縮性狭心症患者の予後は良好であると考えられます。

Kaikita K et al. J Am Heart Assoc. 2015; 4: e002387

有意狭窄部位に合併する冠攣縮の臨床的特徴と予後の検討

冠攣縮は、さまざまな程度の動脈硬化性病変に生じ、動脈硬化の進展にかかわっている可能性があると考えられております。一般的に冠攣縮性狭心症患者の予後は良好ですが、動脈硬化性病変を合併する患者では心血管イベントリスクが高いことがわかっています。しかし、冠攣縮が、冠動脈の狭窄部位、あるいは狭窄以外の部位で起きている症例で、冠攣縮と動脈硬化の位置関係を詳細に研究調査した報告はありませんでした。今回、我々は冠攣縮が有意狭窄部位に合併する患者と有意狭窄部位以外に合併する患者の臨床的特徴とその予後について、1991年1月から2010年12月までに当院に入院し、狭心症の精査のためアセチルコリン負荷試験を施行した1760例を対象に調査しました。

調査した結果、1,760例のうち、冠攣縮は873例、冠動脈の動脈硬化による狭窄は358例に認められました。冠攣縮と狭窄とを併せ持つ症例は233例あり、kaikita5狭窄のみの症例よりも若年で、糖尿病患者が少ない傾向が見られました。一方で、狭窄がなく冠攣縮のみが起こった症例は、狭窄および冠攣縮がない症例よりも高齢で、脂質異常や虚血性心疾患の家族歴が多く見られました。狭窄部位に冠攣縮が生じる群は、狭窄がなく冠攣縮を生じる群や狭窄以外の部位に冠攣縮が生じる群に比べて、5年間における心血管イベントの発症が多いことがわかりました。kaikita6また、狭窄部位に起こる冠攣縮は、心血管イベントに起こる冠攣縮は、心血管イベント発症の予測因子であることが明らかになりました。

本研究の結果から、冠動脈の狭くなった部位に冠攣縮が生じると、将来的な心血管イベントの発症リスクが高いことが示されました(図1)。以上より、冠動脈の狭窄部位で冠攣縮が起きるかどうかをアセチルコリン負荷試験で評価することは、将来の心血管イベントの高リスクである人を予見し、十分な治療を施すために有用であると考えられます。

 

Ishii M, Kaikita K et al. J Am Coll Cardiol 2015; 66: 1105-15

冠攣縮性狭心症におけるスタチンおよび低用量アスピリンの予後改善効果の検討

スタチンはコレステロール低下作用やそれ以外の内皮機能改善効果や抗炎症効果など多面的な作用も有しており、冠動脈疾患におけるスタチンによる冠動脈イベントの発症や進行の抑制が数多く報告されています。以前に泰江先生(当院循環器内科初代教授)らが報告したSCAST試験Yasue H et al. J Am Coll Cardiol. 2008; 51: 1742-8.)では、フルバスタチンによる血管内皮細胞におけるeNOS発現効果や冠攣縮の抑制効果が示されておりkaikita7ますが、今回、我々は、上記の過去20年間の間に当院でアセチルコリン負荷試験を施行した患者で有意狭窄のない冠攣縮性狭心症患者を対象に、スタチン療法の予後改善効果、心血管イベント抑制効果を検討しました。調査の結果、有意狭窄のない冠攣縮性狭心症患者640例のうち、スタチン内服群は168例、非内服群は472例でした。その5年間の心血管イベントの発症率を比較してみますと、スタチン内服群が非内服群に比べて有意に心血管イベントの発症率が低いことがわかりました。この研究結果は、SCAST試験で示されたスタチンの冠攣縮抑制効果によって、スタチンが冠攣縮性狭心症患者の心血管イベントを抑制し予後を改善する可能性を示唆するものです。

Ishii M, Kaikita K et al. J Am Heart Assoc. 2016;5:e003426

急性心筋梗塞に対する二次予防としてkaikita8低用量アスピリンのエビデンスは確立しておりますが、一次予防に関しては、有用性は確立しておらず、否定的であることが過去の大規模臨床試験よりわかっております。近年、急性心筋梗塞の責任病変の特徴であるPlaque erosionや狭窄病変を持たない急性心筋梗塞(MINOCA)の原因として冠攣縮が再認識されています。そこで、我々は有意狭窄のない冠攣縮性狭心症患者における低用量アスピリンの予後改善効果、心血管イベント抑制効果を同様に検討いたしました。しかしながら、図のようにアスピリンの内服に関わらず5年間の心血管イベント発症率は同等で予後改善効果は認めませんでした。他施設からも冠攣縮性狭心症におけるアスピリンの予後効果について検証した研究が報告されておりますが、いずれもアスピリンの予後改善を報告しているものはなく、有意狭窄を合併していない冠攣縮性狭心症においては、必ずしもアスピリンは有用ではないのかもしれません。しかしながらいずれも後ろ向きの予後調査であることから、今後、前向き無作為化試験での検討が必要と思われます。

Ishii M, Kaikita K et al. Int J Cardial. 2016;220:328-332

<抗血栓療法の有効性、安全性に関する臨床研究>

Total Thrombus-formation Analysis System (T-TAS)を用いた血栓形成能評価

抗血栓薬は血液をサラサラにする薬として、心臓病や脳卒中の予防・治療に広く用いられていますが、これまではこれら多くの抗血栓薬の効果はそれぞれ異なる手法によって評価されており、一度に複数の治療薬を併用している場合などには、患者の状態に応じた一様な評価が難しい状態でした。中でも新規経口抗凝固薬に関しては適切な効果判定法もなく、薬が安全で有効かどうかを確実に判断できませんでした。我々は、T-TASという新しい測定器を用いることで、これまで抗凝固効果の判定が困難であった新規経口抗凝固薬の効果や、虚血性心疾患患者が飲んでいる複数の抗血小板薬の効果を一つの検査機器で評価できることを明らかにしたものです。さらにT-TASの測定結果は出血性合併症の指標にもなりうることが示され、一連の報告は抗血栓薬の種類、投与量の調節や、出血・血栓性疾患の新たな管理指標として用いられることが期待されます。

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(熊本日日新聞、Sueta D, Kaikita K et al. Int J Cardiol. 2015;197:98-100

<血栓形成能解析システム(Total thrombus-formation analysis system:T-TAS)>

血管を模したマイクロチップと検体( 採血した血液) を送り出すポンプ、圧力センサー、光学顕微鏡で構成されるモニタリング装置。採血した血液は測定までに煩雑な前処理が不要で、しかも必要な試料は500μLと少量で済む点が特長です。チップ上に流れる血液が模擬血管に血栓を形成していく様子を実際に見ることができ、血栓ができる速さや量を定量的に評価することが可能です。得られる結果は、凝固因子の活性反応を中心に測定するAR値と、血小板の活性化を中心とした血栓形成を測定するPL値の二つがあります。

深部静脈血栓症予防における抗凝固薬の効果

心房細動や深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の治療に対して使われる新規経口抗凝固薬は、これまでのワルファリン製剤と異なり、納豆や青汁などの食事制限が必要ない、血液検査で内服量を調整する必要がない、他の薬剤との飲み合わせに優れている、など多くの利点がある一方で、薬価が高いことや個人に合った内服量を調整することができなといった欠点があります。整形外科で膝関節置換術や股関節置換術を行う際にはkaikita10深部静脈血栓症が起こりやすいことが知られており、深部静脈血栓症を予防するために新規経口 抗凝固薬を予防的に使用することが保険診療で認められています。我々は、整形外科との共同研究により、膝関節置換術目的に入院した連続20 症例を対象として、T-TAS を用いて新規経口抗凝固薬の服薬前後での血栓のできやすさを検討しました。測定の結果、新規経口抗凝固薬(エドキサバン)の服薬によりT-TAS 値(AR10-AUC30) が有意に低いことが明らかとなり、T-TASが新規経口抗凝固薬の効果判定に有用であることが示されました。

Sueta D, Kaikita K et al. Int J Cardiol. 2015;197:98-100

 

心房細動に対するカテーテルアブレーション周術期出血合併症の予測判定におけるT-TASの有用性

心房細動は日本では70万人以上が罹患していると推定される不整脈で、血液がよどむことにより血栓ができやすくなり、脳梗塞や全身性塞栓症の発症率が高くなります。血栓形成を予防するためには抗凝固薬による適切な治療が必要ですが、新規経口抗凝固薬の内服後に、安全かつ有効かどうかを判断する確実な指標がないのが現状です。本研究では、当院で心房細動に対してカテーテル治療を受けられた128症例の血栓形成能を、T-TASを用いて評価しました。その結果、新規経口抗凝固薬の内服3日目で、T-TAS値は有意に低下し、さらにカテーテル治療により出血性合併症を生じた群では、カテーテル治療前のT-TAS測定値がすでに有意に低い(血栓ができにくい、出血しやすい性質である)ことが明らかとなりました。以上の結果は新規経口抗凝固薬の効果を早期に判別する測定システムであることを明らかにし、測定値を活用することにより適切な出血・血栓症予防の管理が可能になると期待されます。

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Ito M, Kaikita K et al. J Am Heart Assoc. 2016;5:e002744

抗血小板薬の効果判定におけるT-TASの有用性

抗血小板薬はいわゆる「血液をサラサラにする薬」の一種で、kaikita12狭心症や心筋梗塞・脳梗塞の再発予防に必要な抗血栓薬です。現在日本でも数種類の抗血小板薬が使用されていますが、高齢化に伴う合併疾患の増加により、抗血栓薬の多剤服用による出血性合併症(薬効により血液が固まりにくくなり、)が問題となっています。また狭心症の治療で冠動脈ステント留置術を受けた後、一定期間二種類の抗血小板薬を服用しなくてはなりませんが、これまで異なる抗血小板薬の効果を、一つの指標で評価することはできませんでした。本研究では、当院に入院した冠動脈疾患患者372症例の血栓のできやすさをT-TASを用いて評価しました。T-TASの測定値のうち、血小板による血栓形成を反映するPL値を用いて検討した結果、抗血小板薬非服用群(56例) に比べて、抗血小板薬単剤使用群(69例)と二剤併用群(149例)ではPL値が有意に低下し、血小板による血栓ができにくい状態になっていることが判りました。さらに、抗血小板薬の単剤使用群より二剤併用群においてPL値が更に低下することも明らかとなり、抗血小板薬の相加的な効果が明らかとなりました。以上の結果は異なる種類の抗血小板薬の効果を単一の測定値で評価できることを示したものです。そのため抗血小板薬による血栓形成抑制能を総合的に評価する指標として、抗血小板薬の多剤併用の解消や、患者の状態に応じた個別の管理に活用することが期待されます。

Arima Y, Kaikita K et al. J Thromb Haemost. 2016;14:850-859

<急性心筋梗塞の治療戦略における基礎研究>

マウス心筋梗塞・虚血再灌流障害モデルでの検討 早期再灌流療法の発達により急性心筋梗塞の救命率や予後は改善してきておりますが、依然として急性心筋梗塞は致死的な病態であり、救命されたとしても再灌流障害、梗塞後心筋リモデリングにより心機能低下を来し心不全に至るなどの課題が残されております。そこで我々は、マウスの心筋梗塞・虚血再灌流障害モデルを用いて心筋梗塞後リモデリングの病態解明やその心保護戦略を検討してきました。 再灌流障害のメカニズムとして活性酸素腫の産生、細胞内カルシウム濃度の恒常性の破綻、炎症などが考えられますが、我々はケモカイン受容体CCR2欠損マウス(Kaikita K et al. Am J Pathol. 2004;2:439-47, Hayasaki T, Kaikita K et al. Circ J. 2006;3:342-51)やマクロファージスカベンジャー受容体欠損マウス(Tsujita K, Kaikita K et al. Circulation. 2007;115:1904-11.)を用いて、梗塞後リモデリングにおける炎症細胞の関与や、虚血再灌流障害形成における小胞体ストレスによるアポトーシスの役割をCHOP欠損マウス(Miyazaki Y, Kaikita K et al. Arterior Thromb Vasc Biol. 2011;5:1124-32.)を用いて検討し、また肥満・糖尿病モデルマウス(KK-Ay)を用いて抗炎症効果を持つピオグリタゾンの再還流障害抑制効果(Honda T, Kaikita K et al. J Mol Cell Cardiol. 2008;5:915-26.)を検討してきました。これらの研究をもとに、現在は種々の薬剤による心筋梗塞後リモデリングの抑制効果や再灌流障害後の梗塞サイズ抑制効果と、そのメカニズムの追求に取り組んでおります。

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