これらの病気の発症機序は、心臓に於ける血流障害、心筋酸素不足によるものと考えられています。
症 状としては、前胸部の痛み・圧迫感が有名ですが個人差があり様々です。検査は外来で出来るものから入院が必要なものまであり、当科では入院にて「心臓カ テーテル検査・冠動脈造影検査」を行っています。冠攣縮性狭心症に対するアセチルコリン負荷試験は、当科にて開発され世界に広まった検査です。
治 療に関しては、最近の医療機器、治療器材の発展により非常に充実ものになってきています。当科に於きましてもバルーンやステントを用いた冠動脈血管形成術 を行っています。また、救急疾患である急性心筋梗塞に対してはCCU(冠動脈疾患集中治療室)を完備し、24時間態勢で即時対応可能としております。
狭心症と心筋梗塞とは?
心 臓は絶え間なく拍動し、全身に血液を送り出すポンプとして生命維持に重要な役割を果たしています。この心臓自身も冠動脈と呼ばれる心臓表面を走る血管に よって血液を供給されており、心臓への血液の供給が減ることや途絶えることによる「心筋虚血」は、心臓にとって重大な問題となります。この心筋虚血によっ て生じる狭心症と心筋梗塞の2つをまとめて虚血性心疾患と呼んでいます。
この様に心筋梗塞と狭心症は、心筋虚血が生じると言った点では同一の範疇に入りますが、狭心症と心筋梗塞の大きな違いは、心筋虚血による心筋の障害が回復するかどうかです。
狭心症の場合
・心筋が死なず回復(一過性虚血発作)する
心筋梗塞の場合
・心筋が死んでしまい(壊死と呼ばれる)回復しません。
心筋梗塞になってしまうと心臓のポンプ機能が低下して、足が浮腫んだり息切れがしたりする
心不全に陥ってしまうことがあります。また、虚血による不整脈出現や、重症心筋虚血による心臓ポンプ機能障害でショックになったりすることで心臓突然死の危険があります。
狭心症と心筋梗塞はどのようにしておこるのでしょうか?
心臓表面を走る冠動脈は心臓に酸素と栄養を供給している血管で、左に2本(左冠動脈前下行枝と左冠動脈回旋枝)、右に1本(右冠動脈)大きなものがあります。
多くの虚血性心疾患は、この大きな冠動脈に狭窄が生じ血流障害を起こすことが原因と考えられています。
狭心症の中には、この大きな冠動脈ではなく末梢の微小血管の異常が原因となるものもあります。
いずれにしても酸素需要と供給のバランスが崩れて心臓が酸素不足の状態に陥ります。
心筋への酸素(血液)供給低下を来す冠動脈狭窄の原因を挙げてみますと、
・動脈硬化により冠動脈血管壁にコレステロール蓄積が生じ器質的血管内腔狭窄を生じる。
・冠攣縮性狭心症 : 冠動脈に痙攣(冠攣縮)が生じ一過性に血管内腔の狭小化が起こる。
といった病態が考えられています。
日本人の狭心症では冠攣縮の関与が欧米に比し多いとされています。
この冠攣縮性狭心症については、当科初代教授:泰江弘文教授を中心として精力的な研究が行われ、熊本大学附属病院循環器内科がその病因・病態・治療について世界に向けた中心的役割を果たしています。
狭心症では酸素需要と供給のバランスが崩れて酸素不足の状態が一過性に生じ、その後回復するのに対して、心筋梗塞では血管狭窄部に血栓を生じ冠動脈が完全に閉塞した状態が持続し、その先(末梢)の血流が途絶え心筋は壊死を起こします。また、冠動脈攣縮のみで心筋梗塞になってしまうケースもあります。
この様に述べてきますと、心筋梗塞は狭心症の重症型、末期状態の様にも思えますが決してその様なことはなく、狭心症のみでも突然死の原因になりますし、前駆症状的狭心症が無く突然心筋梗塞を発症される患者さんも多くみられます。
狭心症と心筋梗塞の症状はどのようなもの?
症状として典型的なものは前胸部の締め付けるような痛みであると言われます。
痛みを感じる場所(個人によって異なります。)
- ・胸の中央
- ・左胸部
- ・左肩
- ・首
- ・下あご
- ・後頭部
- ・みぞおち(胃潰瘍などの消化器疾患との鑑別が重要になります。)など、
※時に胸痛が肩から腕などへ広がること(放散)もあります。
典型的な痛みの性質
- ・締めつけられるような
- ・抑えつけられるような
- ・重苦しいといった漠然とした痛み
非典型的な痛みの性質
- ・胸やけ
- ・肩凝り
- ・歯痛など
痛みの続く時間
狭心症の場合 数分から10分位が多く長くても30分以内です。
心筋梗塞の場合 30分以上で数時間持続します。
特殊な場合として
※通常、心臓のある左側の痛みや症状のことが多いのですが、右側に症状が出現することもあり“右側の症状だから大丈夫”と考えるのは危険です。
※「糖尿病」の患者さんでは痛みのない心筋虚血発作(無痛性心筋虚血)や、心筋梗塞になっても全く痛みがなく軽い息切れや全身倦怠程度の症状の場合(無痛性心筋梗塞)がありますので注意が必要です。
狭心症発作時の症状は患者さんによって異なり非常に多彩です。
それだけに心臓の病気と思わない患者さんも多く、軽い気持ちでの自己判断は禁物です。
もしかしてといった症状があれば当科外来受診をお勧め致します。
虚血性心疾患の検査はどのようにするのですか?
虚血性心疾患の検査方法
- ・心電図検査
- ・運動負荷心電図 、過換気負荷試験
- ・ホルター心電図
- ・血液検査:(心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)・トロポニン-T・CK・CK-MB等)
- ・心臓超音波検査
- ・心筋シンチグラフィー(薬剤負荷、運動負荷)
- ・冠動脈造影
- ・アセチルコリン負荷試験
- ・冠動脈血管内超音波検査
- ・冠血流測定検査
- ・左室造影など
外来で施行できる検査もありますが、足または腕の動脈からカテーテルを挿入し造影剤を用いる冠動脈造影は入院にて行われることが一般的で、冠動脈のどこが狭窄しているのか、どの程度狭くなっているか、冠攣縮が生じるのかの判断に有用であり狭心症の診断を確実にし治療方針を立てる上で大変役立ちます。
当科にても上記の諸検査を行っております。
虚血性心疾患の治療にはどのようなものがあるのでしょうか?
心筋梗塞の治療は、時間との勝負と言ったところもあり緊急性が要求されます。
急性期には、心筋壊死を最小限にくい止め心機能低下を防ぎ救命を目的として血栓溶解療法や緊急冠動脈形成術、緊急バイパス手術が行われます。
当科に於いても病院到着後30分以内の緊急冠動脈造影検査を実施して良好な治療成績となっております。
慢性期には心臓リハビリや内科的薬物治療、危険因子治療が行われます。
狭心症は、その病因により大きく治療が異なります。
冠攣縮性狭心症の場合:(当科にて病因・病態解明に努めてきた)
原則的にはカルシウム拮抗剤という血管拡張剤の投与が行われますが、症例によっては多剤併用が行われます。
粥状動脈硬化にて冠動脈狭窄を来している器質的動脈硬化性狭心症の場合
薬物療法と共にバルーンやステントを用いた冠動脈拡張術や外科的にバイパス手術が行われることがあります。
狭心症には、その発生に関与していると考えられる危険因子が知られています。
- ・高コレステロール血症
- ・高血圧
- ・糖尿病
- ・喫煙
- ・肥満など
現在これらは改善できる危険因子と考えられており、急性期治療後にはこれらの危険因子に対する治療やライフスタイルの改善が重要なポイントとなります。
虚血性心疾患に対する検査・治療は、大きく進歩し早期発見、早期治療により良好な経過が期待できます。
自覚症状がある方やご心配な方は、お気軽に当科外来までご相談頂ければ、しっかりと対応させて頂きます。