Research Activity

研究紹介

心不全・肺高血圧グループ

  • 2021.06.1 |

熊本における心アミロイドーシスの実態調査

熊本における基幹病院で診断された心アミロイドーシスを登録し、臨床所見および治療内容、予後を評価する心アミロイドーシスの実態調査を2018年より行っています。熊本における心アミロイドーシスの診断状況やビンダケル処方認定施設(熊本大学病院や済生会熊本病院)と地域の基幹病院で診断された心アミロイドーシスの臨床的特徴の比較を評価することで、本邦における心アミロイドーシス診療の疫学および診療実態を明らかにすることを目標としています。

ATTR心アミロイドーシス(ATTR-CM)患者のデータベース作成および予後予測システムの開

熊本大学病院循環器内科ではすでに200名を超えるATTR-CM診断の実績があり、診断件数も増加傾向にあります。昨今使用可能となったタファミジスを使用するに際して、病態の評価および予後予測は本薬剤の投与適応判断に重要です。本邦におけるATTR-CM患者の予後および予後予測に有用な因子やタファミジスによって恩恵を受ける患者群の判断できる客観的な指標を明らかにするためにデータベースを作成し、解析を進めております。

 

簡便な心アミロイドーシス病理診断の検討

ピロリン酸シンチグラム検査陽性であった症例において、心筋生検でアミロイド沈着を示すことが診断として確実である一方、高齢者に心筋生検を行うのははばかられる症例もいます。我々は皮膚や胃・十二指腸などの消化管から積極的に生検を行いアミロイド沈着の有無を評価しています。トランスサイレチン型心アミロイドーシスにおいて、皮膚生検では37%、消化管生検では59%で、皮膚生検と消化管生検を共に行った野生型トランスサイレチン型心アミロイドーシス91症例ではいずれかの組織からアミロイドが検出される割合は64%でした(下図)。この結果から病理学的診断のために皮膚および消化管生検を行い、その中で陽性所見を得られなかった場合に心筋生検を考慮することで簡便かつ確実な心アミロイドーシス診断を得ることが可能になると考えています。

 

手根管症候群の手術既往例における心アミロイドーシスの早期発見の検討

トランスサイレチン型心アミロイドーシスにおいては30-50%の症例において手根管症候群が先行するといわれており、手根管症候群の手術時に摘出した組織には10-30%にアミロイド沈着が認められたと報告があります。心アミロイドーシスを早期発見するために手根管症候群手術時に切除した滑膜にアミロイド沈着を認めた症例に対して定期的な心エコーや高感度トロポニンTなどのバイオマーカーにてスクリーニングを行い心アミロイドーシスの早期発見が出来ないか前向き研究を行っています。この研究から早期に心アミロイドーシスを診断可能となればタファミジスなど適切な治療が早期から開始することが可能となることが期待されます。

 

心アミロイドーシスにおける心筋病理と画像所見およびバイオマーカーの対比

心臓造影MRIで評価されるNative T1値は心筋障害や線維化を、Extracellear volume(ECV)は細胞外の容積を表しており、アミロイド沈着を反映しているとされています。またピロリン酸シンチグラフィでは心臓への集積を定量評価する指標である心臓のカウント数と肺野のカウント数比(heart-to-contralateral (H/CL) ratio)がトランスサイレチン型心アミロイドーシスの診断のみならず高値例では予後不良であると報告されています。心エコーでもGlobal longitudinal strain(GLS)が予後予測に有用とされています。しかし心アミロイドーシスの病態進行と関連がある画像所見と病理学的なアミロイド沈着量の相関については未だ報告がありません。今回我々は心筋に沈着したアミロイドを定量評価し、Native T1やECVやH/CL ratio、GLSといった画像所見および高感度トロポニンTとの相関について研究を行っています。この結果から疾患特異的治療によりアミロイド沈着量が減少すればこれらのパラメーターが改善する可能性が示唆され、病期の進行度を非侵襲的に評価するツールとして有用であることが期待されます。

 

トランスサイレチン心アミロイドーシスにおけるタファミジス使用例の臨床経過について

タファミジスは2019年4月にトランスサイレチン型心アミロイドーシスに対する治療薬として承認されました。我々はビンダケル導入施設として熊本のみならず県外からも診断および治療について対応しており、現在までに80症例を超える症例に対してタファミジスの導入実績があり、単施設としては本邦で最も使用経験があります。しかし本剤の有用性については十分な知見が得られておらず、タファミジス投与によって恩恵を受ける患者像については議論が分かれるところです。我々は投与例の臨床経過や心エコーやバイオマーカーなど各種パラメーターを評価し、臨床経過の評価に有用な指標や予後を評価し、本剤の適正使用について検討していきます。

 

CT-ECVを用いた心筋症の診断の有効性

冠動脈評価やTAVI前およびカテーテルアブレーション前に心臓造影CTを行う機会が増えています。心臓CTは冠動脈のみならず、心筋性状をCT-ECVとして評価可能です。我々は心臓造影CTを実施するときに造影遅延やCT-ECVを評価することによって心アミロイドーシスなど検査前に気がつかなかった心筋症に気がつくことがあり、その有用性を実感しています。特にTAVIを行うような高齢大動脈弁狭窄症患者においては少なからずATTR-CM患者が存在しており、TAVIやカテーテルアブレーション前に実施するCTからATTR-CMを含めた心筋症を評価できないか、どのようなステップで心筋症を診断していくかアルゴリズムを作成すべく検討を行っています。

 

右心機能障害の画像的評価について

右心機能評価は現在心エコーを中心に行われていますが、エコーにおける右心系の描出は困難で手技者による差異が生じると言われています。最近では右心系においてもMRIなどで評価が有用であり、T1mappingや右室接合部のLGEなどで線維化を評価する方法が提唱されています。これらの所見が造影CTで評価可能かどうか、また画像所見と患者背景・臨床所見・予後などにどのように関わってくるかを検討したいと考えています。

 

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の画像的評価について

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は造影CTでの造影欠損像、換気血流シンチでのミスマッチ所見などで診断を行いますが、血栓像は末梢血管にあることやWeb, Slitなどの微細な所見であることから、通常の造影プロトコールでは評価が困難であることが少なくありません。我々はよりthin-sliceでの造影方法、またヨード造影剤の造影遅延により右心機能障害の評価、同時にヨードマップによる血流欠損パターンを1度の造影CTで評価できるプロトコールを確立しました。画像診断科と共同研究を行い、肺動脈バルーン形成術後の予後・症状改善度などとの関連性を検討したいと考えております。

 

メンバー紹介

山本 英一郎(診療講師)

高潮 征爾 (助教)

平川 今日子(特任助教)

西 雅人     (大学院生)

森岡 真美 (大学院生)

藤山 陽  (大学院生)

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